北海道森町

no imageふるさとミライカレッジ 事務局

地域資源に関する学習の機会と、学生が住民視点を持てるプロジェクト


森町では、武蔵野美術大学と連携し、学生が町に滞在しながらフィールドワークに取り組んでいます。暮らしそのものを題材に、地域資源の活用方法や地域の可能性を探るプロジェクトが展開されています。

森町での、これまでの地域おこし協力隊の受入経験などを踏まえ、短期的でわかりやすい成果を追いかけるのではなく、学生と住民との関係性を丁寧に築いていくことを重視してプロジェクト設計をしてきました。

学生たちは、住民との対話を通じて森町での将来の暮らしを自分事として捉え、そこから生まれたアイデアを、ジャムや絵本といったものづくりや、森町における未来の暮らし方の提案、都市と地方(生産者と消費者)をつなぐアイデアの実践などの形で表現しています。その際、学生はデザインの専門性を生かして町の基幹産業である林業の森林資源の活用方法を構想し、住民との対話を通じて提案内容を磨き上げていきます。

自治体は、学生と地域をつなぐ接点づくりや滞在環境の整備を担い、大学・学生が主体的に学び続けられる基盤を整えています。こうした学生をはじめとする域外人材の関与は、住民の意識変化や自発的な活動を後押しし、地域内のチャレンジを生み出す力にもなっています。
 



▲ 野菜の流通現場から着想を得た「野菜便」の提案作品。文通のように森町の空気感を消費者に届ける(左)
▲ 水産業者を訪ねて話しを聞き、得た気付きを作品に昇華する(右)

 

各事例のポイントを、「共創まちづくり」の観点から“読み解くヒント”としてまとめました。
事例はそのまま模倣することが難しいからこそ、本ヒントを参考に背景やプロセスに着目し、実践に向けた学びの手がかりとしてご活用ください。

 

 

--目次--

  • 基礎情報
  • 経緯や転換点を生んだ工夫
    • 協力隊受入の経験を生かしながら、“地域住民との関係性構築”を重視
    • 町の基幹産業に関する大人の学びが、学生の学びの場へ派生
  • 体制上の工夫
    • 地方自治体が環境整備に徹して連携継続をめざす体制
    • 大学教員・専門人材との連携を通じた工夫
    • 域外人材の関与による、住民活動の活性化

 

 

基礎情報

自治体名

北海道 森町

人口規模
※令和7年度時点

13,268人

連携大学(所在地)

武蔵野美術大学(東京都)



 

 

経緯や転換点を生んだ工夫

▲ 成果報告会では作品介した住民と学生の意見交換や対話が生まれる(左)
▲ 日本全国スギダラケ倶楽部は「地方に学びに行く」をコンセプトに、大人たちが林業の現場を訪問し実態を学んでいる(右)


 

 

 

協力隊受入の経験を生かしながら、“地域住民との関係性構築”を重視

森町では、大学や学生と連携する以前から、地域おこし協力隊などの形で、若者を地域に受け入れてきました。そのなかで自治体・地域住民が実感してきたのは、若者に対して短期的な成果を求めるよりも、地域住民との関係性を丁寧に築く機会を確保することの大切さでした。そうした関係づくりを通じて、森町にフィールドワークをしに来た学生が結果的に移住するなど、学生の長期的な関与へとつながっていくケースが見られます。

武蔵野美術大学の学生を受け入れるフィールドワークの設計においても、「学生が地域に入り込み、関係性を築いていくこと」を重視する方針が取られました。美大生による制作物の完成度や数量といった、わかりやすい成果を最初から求めるのではなく、自治体はまず「年に一人の移住者を獲得すること」を目標に掲げました。その目標に向き合うことで、地域住民との関係性を丁寧に育み、地域との関わりを継続する若者を生み出すことをめざしています。

こうした考え方のもとで取組を重ねてきた結果、武蔵野美術大学の学生のなかから実際に移住し、地域に関与し続ける人も現れました。さらに、その移住者が今度は受入側として学生の活動を支える存在となるなど、関係性が循環する動きも生まれています。

▲ プロジェクトへの参画を経て、森町や周辺地域へ移住した学生(中央の3人)

 

 

町の基幹産業に関する大人の学びが、学生の学びの場へ派生

森町が武蔵野美術大学との連携に至った背景には、同大学の若杉教授が立ち上げた「日本全国スギダラケ倶楽部」での活動と、そこから生まれた人的ネットワークがあります。この活動は、「一次産業(主に林業)の現場で地方と都市の関係性を実体験する」ことをテーマに、都市部の大人たちが地方へ学びに行くフィールドワークが行われてきました。森町の自治体職員や町内企業の経営者など、林業に関心の高いメンバーがこのスギダラケ倶楽部の活動に参加しており、そうした関わりが、大学との連携へとつながっていきました。

また、スギダラケ倶楽部で大切にされてきた考え方は、そのまま学生のフィールドワークにも引き継がれています。学生たちは、一次産業が衰退しつつある現場を実際に訪れ、大学で培ってきたデザインの力を生かしながら、地域資源の新たな活用方法を模索し、プロトタイプ(試作品)等の形で提案しています。


 

体制上の工夫

 

地方自治体が環境整備に徹して連携継続をめざす体制

町は、大学や学生が取り組む活動内容そのものには深く踏み込まず、自治体としての役割を「地域との接点をつくること」と「活動や滞在の環境を整えること」に置いて、大学連携を進めてきました。

具体的には、町の基幹産業に関わる事業所や地域住民、関係者を学生に紹介したり、学生の活動場所の確保や調整、宿泊施設の提供などを担ったりしています。また、羽田―函館間の航空券費用の負担や、学生に伴走してサポートする地域内の専門人材との調整も、こうした環境づくりの一環として行っています。

一方で、活動テーマの設定や成果のまとめ方、学生への具体的な指導については、大学や専門人材に委ねており、自治体はあくまで、「大学や学生が主体的に活動を続けていける環境を整えること」に専念する姿勢を貫いてきました。


 

大学教員・専門人材との連携を通じた工夫

学生は、森町におよそ1か月間滞在し、「町での将来の暮らし」をテーマにした提案や実践に取り組みます。このプログラムの作成には、大学教員だけでなく、地域の専門人材も設計段階から協力しています。専門人材は、隣町でデザインの知見を生かしたコンテンツ開発支援などを行う事業者で、大学教員との個人的なつながりをきっかけに、学生の活動を支援する立場で関わっています。

専門人材は自らの知見を生かしつつ、森林資源の活用と、学生が継続的に地域へ関わり続けられる仕組みづくりを意識しています。学生が「住民の暮らしのなかで森林資源をどう生かせるか」を考える過程では、ユーザーである住民が本質的に何を求めているのかを自分事として捉えられるよう、住民との対話の場を積極的に設けています。制作物の出来栄えを評価してもらうこと自体を目的とするのではなく、住民からの率直な共感や違和感を学生が直接受け取り、そのフィードバックを次に生かしていく。そうしたサイクルを重ねながら、活用方法を磨いていくという「デザインの考え方」を重視して設計しています。

さらに、学生自身が暮らしの当事者として地域に入り込むことで、地域課題をより身近なものとして捉える姿勢が育まれています。その経験が、「またこの町を訪れたい」「関わり続けたい」という思いへとつながっています。

 

 

域外人材の関与による、住民活動の活性化

森町では、学生が地域に入ることそのものが、住民の意識に少しずつ変化をもたらしています。フィールドワークに参加する学生たちは、域外からの視点を持ちながらも、住民の目線に立って地域の未来を考え、提案を行います。

その姿は、住民にとっても大きな刺激になります。外から来た若者が真剣に自分たちの町のことを考えてくれる。そういった外部の視点や姿勢が、「自分たちはこの町をどう思っているのか」「これからどうしていきたいのか」と、自分が暮らす地域への想いを改めて見つめ直すきっかけになっているのです。また、学生を指導する若杉教授やプロジェクトを通じて町に移住した卒業生らによる住民向けのワークショップでは、住民自身も地域の未来について考え、それを写真や絵で表現する試みも行われました。

こうした交流を重ねるうちに、住民の中からも主体的なアイデアが生まれるようになりました。例えば「マルシェをやってみたい」といった声が挙がり、実際に実行へと移されたケースもあります。学生や大学の活動に関わることで、住民自身が「面白い」「やってみたい」と思えることに挑戦する動きが、少しずつ広がっているのです。

域外人材の関与は、単に新しいアイデアを持ち込むだけではありません。住民の内側にある想いを引き出し、内発的な活動を後押しする力になっています。森町では、そんな変化が確かに生まれています。


▲ 町の未来をテーマに地元中学生が撮影した写真展の様子

 

公開範囲 一般公開
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