長野県飯田市

no imageふるさとミライカレッジ 事務局

市の“大学がない”という課題の解消と、教員の相互学習からの発展


飯田市には4年制大学がありませんが、大学が立地していない地域でも大学の専門的知見を地域づくりに生かす仕組みとして、全国の大学研究者の知見や研究成果をつなぐネットワーク組織「学輪IIDA」が設立されました。これを起点に、地域課題をテーマとした研究・教育プロジェクトが展開されています。研究者同士の成果共有から始まったネットワークは、分野横断の知の集積によって地域の付加価値を高めることや人材育成機能の強化へと派生し、現在は教員や学生が地域と協働する取組へ発展しています。

さらに2025年度には、学輪IIDAに関与する大学の学生組織「遠山郷クラブ」が設立されました。これにより、学生が地域住民と直接つながって主体的に地域課題の解決に関わるとともに、受入自治体と相互に、継続的な関係性を築こうとしています。

自治体は市役所内に大学誘致連携推進室を設置して大学連携の窓口を一元化し、地域や庁内との調整機能を担っています。また、地域おこし協力隊経験者などをコーディネーターとして配置し、学生と地域が対話を重ねながら活動内容を決められる土台を整備してきました。こうした取組により、フィールドワーク参加学生や卒業生が継続的に関わりやすい仕組みを構築し、関係人口の創出とネットワーク形成をめざしています。
 


 

共通カリキュラムフィールドスタディで遠山郷地域を訪れた学生が地元猟師の手ほどきを受けて鹿を解体した(左)
学輪IIDA全体会では、大学の先生方によって、取組の整理と意味付けが行われる(右)

 

各事例のポイントを、「共創まちづくり」の観点から“読み解くヒント”としてまとめました。
事例はそのまま模倣することが難しいからこそ、本ヒントを参考に背景やプロセスに着目し、実践に向けた学びの手がかりとしてご活用ください。

 

 

--目次--

  • 基礎情報
  • 経緯や転換点を生んだ工夫
    • 大学研究者ネットワークから、学生を巻き込んだ学びの場へ展開
    • 大学教員を介した関与から、学生が主体的に地域と関わる段階へ
  • 体制上の工夫
    • 大学研究者ネットワークの活動を自治体が支援
    • 大学教員の専門知とネットワークを活用した課外活動の設計
    • 地域と学生が直接つながり続けるため「遠山郷クラブ」を設立

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基礎情報

自治体名

長野県 飯田市

人口規模
※令和7年度時点

93,555

連携大学(所在地)

白梅学園大学(東京都)、東京農工大学(東京都)、都留文科大学(山梨県)、学習院大学(東京都)、中京学院大学(岐阜県)他



 

 

 

経緯や転換点を生んだ工夫
 

▲ 学輪IIDAが発行する機関誌「学輪」(左)
▲ 学輪IIDA全体会での討議の様子(右)

 

 

大学研究者のネットワークから、学生を巻き込んだ学びの場へ展開

飯田市には4年制大学がないことから、大学の地域課題の解決に関する知見や人材育成機能を、地域で活用しにくいという構造的な課題がありました。こうした状況への対応の必要性を背景に、飯田市に関心を持って調査研究等で訪れていた全国の大学研究者*1をネットワーク化して、大学の専門的な知見や人材を地域に呼び込むことで、これまで飯田が培ってきた経験や取組と融合しながら地域の付加価値を高める新しい大学機能の構築をめざし、「学輪IIDA」を設立しました。

設立当初の学輪IIDAは、大学研究者による研究成果の共有や地域と連携したモデル的な取組の展開を主な目的としていましたが、大学教員から、飯田の特徴や価値をテーマとした学生のフィールドワークを希望する意見が出され、学輪IIDA共通カリキュラムフィールドスタディが始動地域社会の仕組みや環境政策などをテーマに、複数大学が連携して地域で学ぶ機会をつくる取組を継続して実施しています。また、学輪IIDAが発行する機関誌「学輪」には、学生も執筆に関わる論文の掲載が徐々に増えるなど、研究やフィールドワークへの学生の参画と、その成果を地域へ還元する取組が関係者間に浸透していきました。

*1 「大学研究者」のなかには、大学で教鞭をとっている教員に加えて、大学に所属する研究職の方も含める


▲ 学輪IIDA全体会では飯田をフィールドとした卒業論文のポスタ―発表も行われる

 

大学教員を介した地域への関与から、学生が主体的に地域と関わる段階へ

学輪IIDAの学生フィールドワークは、自治体や大学教員が設計したカリキュラムに学生が参加する形で実施されてきました。しかし、この方法では学生の活動内容が教員によって事前に計画された範囲内にとどまりやすく、学生の自由度や主体性が十分に発揮されず、地域課題の解決につながりにくいという課題がありました。また、活動期間が限定的であるため、地域との関わりが一過性のものになりやすく、学生が地域と継続的な関係性を築く段階まで到達しにくい状況も生じていました。

飯田市には、年間700名を超える研究者や学生が様々な活動で訪れていますが、これらの貴重な人材の力を地域づくりにつなげるためには、学生が主体的かつ継続的に活動し、地域に関与できる仕組みが必要であるという認識が関係者の間で共有されました。こうした背景のもと、自治体と大学が協力して「遠山郷クラブ」を設立し、自治体や遠山郷地域の住民組織である「上村まちづくり委員会」「南信濃まちづくり委員会」等と連携して活動を行うことになりました。

遠山郷クラブは、学生が主体的に地域と関わり、地域住民が学生を受け入れるという自発的な相互関係の構築をめざしています。また、遠山郷と関係性を持った学生が卒業後も参加できる組織として位置付けられており、従来の活動期間を限定したフィールドワークから継続的な活動へと発展させ、自らの意思で地域に関わり続ける人材の創出をめざしています。


 

体制上の工夫 

 

大学研究者ネットワークの活動を自治体が支援

飯田市では、地域に集う研究者による研究成果や学び、そこから生まれる人材交流といった大学の機能を地域内に実装するため、自治体が主導して「ネットワーク型の大学機能」の構築をめざし、大学研究者のネットワーク組織である「学輪IIDA」を設立するとともに、段階的に機能を積み重ねてきました。

自治体は学輪IIDAの設立と同時に、企画部企画課に大学連携を専門に担当する係を設け、大学連携の推進を図ってきました。これにより、大学連携に関する市の窓口が一元化され、大学研究者や学生、市民からの相談に対して、地域や庁内との調整までを基本的にワンストップで対応する体制が整備されました。その結果、大学側の多様なニーズにも柔軟に応えられる運営体制が構築されています。

さらに、2022年度からは専門係として担っていた機能を「大学誘致連携推進室」の新設により独立させたことで、大学連携の取組が地域内外に見えやすくなり、大学や地域とのきめ細かな連携が欠かせない「遠山郷クラブ」の活動に向けた各種調整についても、より円滑に進められるようになっています。
 

 

大学教員の専門知とネットワークを活用した課外活動の設計

学輪IIDAでは、メンバーである大学研究者が有する知見を持ち寄って大学間で共有する「共通カリキュラム」を作成し、複数大学が合同で実施するフィールドワークを「学輪IIDA共通カリキュラムフィールドスタディ」として展開することで、地域に関する学びを深めてきました。

共通カリキュラムのテーマは、「地域社会の仕組み」や「経済活動」に関する内容のほか、自然・歴史・文化などの地域資源に関する内容など、飯田市ならではの特徴的な取組や事象を研究対象とするものであり、各教員の興味関心や専門性を生かしたプログラム共同で設計しています。「飯田」を共通の研究フィールドに据えることで、複数の大学研究者による研究活動と学生に対する教育実践が連動し、学輪IIDAのネットワークを基盤とした大学の枠を超えた組織的な連携が生まれています。

▲ 遠山郷地域で行われた共通カリキュラムフィールドスタディの現地調査で急傾斜の農地を歩く学生 

 

 

地域と学生が直接つながり続けるため「遠山郷クラブ」を設立

「遠山郷クラブ」の設立にあたり、自治体は、地域おこし協力隊(総務省の制度の一つで、都市住民が地方へ移住し、数年にわたり地域活性化活動に従事しながら、その地域への定住・定着を図る制度)として遠山郷での活動経験があり、地域住民と幅広いつながりを持つ人材や、市民協働や若者の人材育成などに長年携わってきた人材に対し、学生と地域をつなぐコーディネーターの役割を依頼しました。また、遠山郷地域の住民組織である「上村まちづくり委員会」「南信濃まちづくり委員会」に対し、取組のねらいや期待する効果を説明したうえで意見交換を行い、事業実施に向けた合意形成を図るなど、地域が学生を受け入れるための土壌づくりを進めました。

結果として、学生がコーディネーターや地域住民と対話しながら地域の課題を捉え、学生同士で話し合いながら活動内容を決定できる体制が整いました。コーディネーターは学生に伴走しながら、学生と連携する事業者や住民組織との橋渡し役を担い、活動が円滑に進むよう支援しています。

こうした、大学のプログラムや大学教員の設計に依拠しない活動を意図的に取り入れることで、学生の自主性と主体性を引き出し、フィールドワーク終了後も学生と地域との交流が継続するネットワークの形成が期待されています。飯田市では、フィールドワークに訪れた学生や、これまでに参加した卒業生などが活動に関わり続けやすい仕組みを整え、関係人口の創出をめざしています。

▲ 遠山郷クラブの活動で廃棄ブルーベリーや草木を用いて染物をする学生

 

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