島根県海士町

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自治体が主導して連携大学等との関係性を深化

海士町では、学生を直接募集する「大人の島留学*1」を展開するなかで、「大学と連携した学生募集・受入」を進め、若者の還流*2拡大と、滞在拠点整備を含む継続的な受入基盤の構築を図ってきました。その過程で、若者に単なる労働力として地域事業者へ関わってもらうのではなく、若者が事業を生み出す主体として参画できる役割を地域側が用意する、という発想へと転換しています。

こうした取組の特徴は、『若者に選ばれ続ける新しい地域経営モデルをつくる』という地域のビジョンを起点に、大学や域外人材との連携を段階的に深化させてきた点にあります。大学連携においては、複数の大学が研究フィールドワーク、インターンシップ、ゼミ合宿の実践地として地域を訪れており、フィールドワークの単位化や研究連携を通じて地域課題を学術的に捉え直すなど、事業の発展を共にめざす関係を築いています。さらに、自治体が事業を管理統括し、その成果を町の総合戦略へ接続するとともに、得られた知見を地域内の組織へ移転・共有することで、事業の持続化と地域による内製化を図っています。

*1 大人の島留学…総務省の地域おこし協力隊や集落支援員等の制度、離島を対象とした交付金制度などを活用した、学生等の若者を期間限定で地域へ受け入れる事業。
*2 若者の還流…若者が地方での暮らしや仕事の経験をきっかけに、その後も地域内外を行き来しながらつながり続ける流れ・現象。

 



▲ 2021年から本格始動した「大人の島留学」。事業を生み出す主体として大勢の若者が町に関わっている(左)
▲ 大人の島留学では、一次産業や観光、行政の仕事等さまざまな領域で働く機会がある町に関わっている(右)

 

各事例のポイントを、「共創まちづくり」の観点から“読み解くヒント”としてまとめました。
事例はそのまま模倣することが難しいからこそ、本ヒントを参考に背景やプロセスに着目し、実践に向けた学びの手がかりとしてご活用ください。

 

 

--目次--

  • 基礎情報
  • 経緯や転換点を生んだ工夫
    • 地域側の受入基盤整備
    • 地域側が掲げるビジョンを起点とした連携の深化
  • 体制上の工夫
    • 自治体が事業を管理統括し、町の戦略への接続
    • 連携を持続化・発展させるための大学側の工夫
    • コーディネート組織の「プロジェクト伴走力の強化」を図る

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基礎情報

自治体名

島根県 海士町

人口規模
※令和7年度時点

2,302人

連携大学(所在地)

慶應義塾大学(東京都)、東京農業大学(東京都)、東京都市大学(東京都)、上智大学(東京都)、東洋大学(東京都)他



 

 

経緯や転換点を生んだ工夫

▲ 町内に複数あるシェアハウスが学生や若者の安定的な受入につながる(左)
▲ 学生が町の経営人材候補として活躍できる状態をめざし、事業創造等に取り組む様子(右)

 

 

 

地域側の受入基盤整備

海士町は、高校魅力化や交流・共創の政策に力を入れてきた地域です。2020年に若者の受入を試行し、2021年には学生等の若者を地域へ受け入れる「大人の島留学」として、地域が直接学生を募集する取組を開始しました。この取組と並行して、町は従来から自治体職員などと関係のあった大学へ連携を持ち掛け、大学連携の推進を通じた若者の流入拡大と受入基盤の整備を進めてきました。

その過程で、シェアハウスなどの滞在拠点を複数整備し、住環境を含む受入体制を段階的に拡充してきました。これにより、継続的に学生を含む若者を受け入れられる体制が整いつつあります。

一方、受入事業者の開拓が進むなか、若者がオーナーシップやリーダーシップを発揮していくうえで、現場の労働支援を前提とした受入先だけでは、選択肢や意思決定の機会を十分に提供できないという課題も顕在化してきました。これを受け、若者が自らのポテンシャルを発揮し事業を生み出す主体として地域に関われるよう、地域側が役割や機会を用意する方向へと発想を転換するようになりました。

 

 

地域側が掲げるビジョンを起点とした連携の深化

海士町では、他地域との交流や比較を通じて、自地域の課題を捉えてきました。そうしたなか、「若者がいない地域の姿」への問題意識を出発点に若者の還流を促す事業として大人の島留学を構想。事業を進めるなかで、『若者に選ばれ続ける新しい地域経営モデルをつくる』という地域のビジョンが少しずつ磨かれてきました。

こうしたビジョンを地域側が「まずは掲げて共有」し続けてきたことが、大学等との連携を生み出す土台となりました。また、大人の島留学の取組を開始する以前から、町が域外の共創プロジェクト(コクリ!プロジェクト*3など)を受け入れ、地域住民と域外人材が対等に学び合う場づくりを重ねてきたことも、域外の人材や大学教員等との連携を深めるきっかけとなっています。

学生受入の実践を通じて、「きっかけさえあれば若者は地域に来る」ことが明らかになり、「ニーズはあるが若者がいない」という状況を、地域側の課題として捉え直す認識の転換にもつながりました。こうした課題に向き合い、自治体職員が大学の講義に講師として登壇するなど、学生が地域を知り、地域に関わるきっかけを地道につくり続けた結果、現在では年間200人近くの若者が地域に関わるまでになっています。

*3 コクリ!プロジェクトウェルビーイング… コ・クリエーション(共創)プロセスを使って、地域や社会に大転換を起こそうとする研究コミュニティ

 


 

体制上の工夫

 

自治体が事業を管理統括し、町の戦略への接続

若者の還流をめざす本事業では、自治体が管理・統括を担い、島前ふるさと魅力化財団(地域の中間支援組織)が受託運営を担う体制を整えています。自治体は単に事業を委託するだけでなく、自治体職員が直接運営管理に関与することで、町の戦略を事業運営に反映させる体制も築かれています。

還流事業を通じて受託組織である財団が磨いてきた地域のビジョンは、町の総合戦略(2025年策定)にも反映されました。個別事業の成果を町の戦略に接続していくことで、取組が一過性に終わることを防いでいます

こうした体制は、町長・副町長が住民の意見を受け止める役割に徹しつつ権限移譲を進めてきた組織文化を土台に、自治体職員が権限や責任をもって主体性を発揮することで支えています。

 

 

 連携を持続化・発展させるための大学側の工夫

2022年ごろからは、首都圏大学との連携も盛んになり、複数の大学が研究フィールドワークやインターンシップ、ゼミ合宿の実践地として町を訪れるなど、学生の受入が本格化しました。

東京都市大学とは同年に連携協定を締結し、インターンの単位化や受入経費の支援を大学側から受ssssけながら連携を続けています。

同大学との連携は2024年から、町をフィールドとした研究活動(関係人口のウェルビーイング*4研究など)へと発展し、地域のビジョンや事業成果を大学側が研究対象として捉えることで、事業の発展を共にめざす関係性が築かれています。

学生を含む多くの若者が流動的に地域と関わる地域性は、イノベーション分野の研究者にとっても貴重な研究のフィールドや研究材料となっています。2025年度に大学連携事業の講師として初めて町に関わった大学教員の中には、次年度も地域に継続的に関与する意向や、事業内で取り組んだ研究成果を国際学会で発表する意向などを示す者も現れています。

*4 ウェルビーイング… 「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること」と定義される。東京都市大学では、若者が関係人口として地域に関与するなかでどのような点にウェルビーイングを感じるのかを研究し、若者の地域活動への参画動機を促すことをめざしている。

 

 

コーディネート組織の「プロジェクト伴走力の強化」を図る

2025年度から、海士町では慶應義塾大学大学院などと連携し、事業創造プログラムを開発しています。慶應義塾大学大学院とは、町が実施してきた他事業を通じて関係性を築き、その過程で町のビジョンや取組を共有してきたことを背景に、連携に至りました。本プログラムでは、講義やワークショップ等を通じて学生のプロジェクトを支援するとともに、島前ふるさと魅力化財団のメンバーが伴走プロセスに深く関わる設計となっています。これにより、「学生の事業創造」と「地域側の伴走力育成」の両方をめざしています。

さらに、海士町オフィシャルアンバサダー制度*5の仕組みを活用して、地域外に出た若者や大学教員を含む関係人口を蓄積・可視化し、共創を支える人材基盤の強化にもつなげています。

*5 海士町オフィシャルアンバサダー制度…海士町ファンが町や他のファンとつながり、交流できるコミュニティ。LINEやSlack等を活用したコミュニケーションに加え、アンバサダー限定のイベントが年に数回開催されている。2024年開始。
*6 滞在人口…ある特定の地域に一時的に訪れ、滞在している人。

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