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企業の挑戦に、若者の視点を。
── 約1か月滞在型で育む「上天草ベンチャー留学」

熊本県上天草市では、人口減少と若者流出が進むなか、地域企業の企画・分析・実行を担う人材が不足し、企業の挑戦が構想段階に留まることが深刻な課題となっていました。
目指したのは、人手不足を補うために学生を受け入れることではなく、若者ならではの視点や発想を生かして、地域企業の課題を根本から解決していくこと。そんな想いから始まったのが、「上天草ベンチャー留学」です。
地域おこし協力隊を中心に実行委員会を立ち上げ、大学と連携しながら、学生が約1か月地域に滞在し、企業課題の解決に挑戦する実践型プログラムへと発展しています。
令和8年度は3大学・3社・約6名の学生が参加する取組へと広がり、地域企業だけでは生まれなかった新たな挑戦や関係人口*1の創出につながっています。

事例のポイントを、「共創まちづくり」の観点から“読み解くヒント”としてまとめています。事例はそのまま模倣することが難しいからこそ、背景やプロセスに着目し、ご自身の地域における実態や立場との類似点・相違点を意識しながら、実践に向けた学びの手がかりとしてご活用ください。

 

▲地域住民等を対象にした成果報告会の様子(左)
▲上天草市滞在中に大学生がラジオ収録に参加する様子(右)

 

目次

  • 基礎情報
  • 地域の抱える課題感
    • 若者流出が進み、地域企業の挑戦を支える人材が不足
    • 「人手不足」ではなく、新しい視点を地域へ取り込む必要性
  • 最初のアクション
    • 地域おこし協力隊の実践から生まれた ── 「上天草ベンチャー留学」の始まり
    • 「人手」ではなく「若者の視点」を地域へ── 大学との連携を広げる
  • 苦労話・工夫
    • 「職場体験」ではない──企業に新しいインターンシップの価値を伝える
    • 公共交通が少ない地域だからこそ──地域の資源を生かした受入環境づくり
    • 大学との連携を「個人」から「組織」へ
    • 学生同士のつながりが、地域との継続的な関わりを生み出した
    • 市とコーディネーターが役割を分担──持続可能な推進体制へ
  • 取組の成果と次のステップ
     

基礎情報

自治体名熊本県 上天草市
人口規模 ※令和7年度時点約2.3万人
連携大学(所在地)津田塾大学(東京都)、横浜国立大学(神奈川県)、北九州市立大学(福岡県)

地域の抱える課題感

上天草市では、15〜24歳の人口が5年間で約30%減少するなど、若年層の流出が続き、地域の担い手不足が深刻化しています。
中学校卒業後には約7割が市外へ進学することから、若い世代との接点が少なくなり、地域企業が新たな視点や感性を取り入れる機会も限られていました。
一方、観光業や海洋産業など地域資源を生かした産業には成長の可能性があるものの、企画・分析・実行などを担う人材の確保が難しく、新たな挑戦が構想段階で止まってしまうケースも少なくありませんでした。
こうした課題を踏まえ、上天草市では、不足する人手を一時的に補うのではなく、若者ならではの視点や発想を地域企業へ取り入れて企業の挑戦を後押しする、人手不足という課題の根本に向き合う新たな仕組みづくりが求められていました。
 

最初のアクション

 地域おこし協力隊の実践から生まれた ── 「上天草ベンチャー留学」の始まり

令和6年度に、地域おこし協力隊として都市部大学生の実践型インターンを受け入れたとき、「学生は人手を補う存在ではなく、地域企業の課題解決に貢献できるパートナーになれる」という確かな手応えを得ました。この気づきが、取組の出発点です。
その経験を踏まえ、令和7年度には、「上天草ベンチャー留学実行委員会」を設立。地域おこし協力隊OBや民間メンバーを中心とした体制を整え、受入企業と大学・学生をつなぐ実践型プログラムとして本格的に始動しました。

 「人手」ではなく「若者の視点」を地域へ ── 大学との連携を広げる

取組で一貫して大切にしてきたのは、学生の視点や発想を地域企業の挑戦に生かすことです。
地域コーディネーターの育成を検討するなかで、ETIC.*2による研修や伴走支援を受け、実践型インターンシップのノウハウを学びながら、「上天草ベンチャー留学」の立ち上げを進めました。
初年度は、学生個人への呼びかけを中心に参加者を募集し、約1か月地域に滞在しながら企業課題に取り組むプログラムをスタート。
学生が持つ新たな発想と、地域企業が抱える課題を結び付けることで、企業の挑戦を後押しするとともに、将来的な関係人口の創出にもつなげようとしています。

 
▲大学生と受入企業とコーディネーター

 

苦労話・工夫

 「職場体験」ではない──企業に新しいインターンシップの価値を伝える

これまで地域企業が受け入れてきたインターンシップは、数日間の職場体験として社会貢献の一環で行われることが多く、店頭に立つなど日々の業務を体験してもらう内容が中心でした。
一方、上天草ベンチャー留学では、学生が企業の課題解決に取り組む実践型プログラムとして実施しました。企業にも受入費用を負担いただくことから、「学生が企業の課題解決に本当に役立つのか」という不安や戸惑いの声もありました。
そこで、コーディネーターがこれまでの事例を紹介しながら、学生ならではの視点や発想が企業にもたらす価値を丁寧に説明。取組を重ねるなかで理解が広がり、企業側も学生を「ともに課題解決に取り組むパートナー」として受け入れるようになっていきました。

 

▲大学生が地域住民にヒアリングする様子

 公共交通が少ない地域だからこそ──地域の資源を生かした受入環境づくり

上天草市では鉄道がなく、路線バスも数時間に1本程度と、学生が企業へ通うための移動手段の確保が課題でした。
そこで、地域おこし協力隊が新たに始めた原付バイクのレンタル事業を活用し、学生が地域内を移動できる環境を整備しました。
こうした地域の実情に合わせた工夫を重ねながら、学生が安心して活動できる受入環境づくりを進めています。

▲現地での移動手段である原付スクーター

 大学との連携を「個人」から「組織」へ

立ち上げ初年度の募集は、学生個人への呼びかけが中心でした。しかし、取組を長く続けていくには、大学との組織的な連携が欠かせません。
令和8年度からは、津田塾大学、横浜国立大学、北九州市立大学の3大学と連携し、大学の就職支援担当や教員とも協力しながら、学内での広報や授業を通じた説明を実施。例えば北九州市立大学では、授業の中で地域インターンシップについて紹介する機会が設けられるなど、大学ぐるみで学生の参加を後押しする体制づくりが進んでいます。

▲体制図

 学生同士のつながりが、地域との継続的な関わりを生み出した

参加学生は同じ宿泊施設で、自炊をしながら共同生活を送っています。当初は宿泊費や運営の手間を抑えるための工夫でしたが、日々の食事や何気ない会話を通じて学生同士のつながりが深まり、活動中の悩みや経験を語り合える関係が自然と生まれました。
プログラム終了後も、ボランティアや地域イベントに参加する学生が現れるなど、一過性のインターンシップにとどまらない関係が育まれています。こうした経験から、同じ宿泊施設で交流できる環境は、今後も継続していきたい仕組みの一つとなっています。
上天草ベンチャー留学では、学生が一定期間地域を訪れるだけでなく、地域企業との関わりをきっかけに、その後も地域とつながり続ける関係づくりを大切にしています。

 市とコーディネーターが役割を分担──持続可能な推進体制へ

事業開始当初は、市と地域おこし協力隊が一体となって運営していましたが、それぞれの役割が明確ではなく、調整に時間を要する場面もありました。
令和8年度からは、市・コーディネーター・企業・大学がそれぞれの役割を担う体制となっています。
市が予算管理や契約、企業との調整を担い、コーディネーターが企業と学生双方の伴走支援を実施。企業は実践課題を提供し、大学は学生募集や教育面を担う体制へ移行。それぞれの強みを生かした役割分担を進めることで、行政だけでは実現できない実践型プログラムとして継続的に運営できる体制づくりにつなげています。

取組の成果と次のステップ

「外部視点の仮説提示が事業改善の突破口になった」「社内だけでは着手できなかった企画が前進した」──学生からの提案を受けて、受入企業からはこうした声が寄せられています。企業同士のつながりも広がり、横展開する動きも見られています。令和8年度は3大学・3社・約6名の学生が参加する規模となり、一過性の取組にとどまらない関係人口の創出という点でも成果が現れ始めています。
学生と地域とのつながりは、プログラムが終わった後も続いています。令和6年度の学生受入時から活用しているSlack上では、終了後も学生同士の情報交換が続き、翌年度の参加につながるほか、「今度遊びに行きます」と地域を再訪し、ボランティアや地域イベントに参加する学生も見られます。今後は、新たなインターンシップや地域イベントなどの情報発信にもSlackを活用し、学生との継続的な関係づくりにつなげていく考えです。
さらに、参加大学や受入企業の拡大に加え、農業や福祉など他分野への展開も視野に入れながら、学生や外部人材が継続的に地域へ関わる仕組みづくりを進め、「地域産業のアップデートモデル」として発展させていくことを目指しています。
 

*1 関係人口 … 移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもなく、特定の地域に継続的に関心を持ち、多様な形で関わる人々を指す。地域づくりの新たな担い手として注目されている。
*2 ETIC.(エティック) … 実践型インターンシップなどを通じて若者の挑戦を支援するNPO法人。地域コーディネーターの育成や中間支援に多くの実績を持つ。

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