ふるさとミライカレッジ 事務局
眠っていた駅前の「蔵」を、若者が集う場所へ ──
早稲田大学・仙台高専と挑む、増田地区の賑わい再生
| JR名取駅前に広がる増田地区は、旧奥州街道沿いに栄えた歴史的な商業・行政の中心地でありながら、高齢化や空き家の増加によって、少しずつ賑わいを失っていました。名取市は、東日本大震災からの復興支援で縁の深まった早稲田大学と令和5年7月に官学連携協定を結び、令和6年度から学生のフィールドワークを開始。さらに、東京の大学のみではなく、地域の継続的な活動につなげられるよう、名取市内にキャンパスを持つ仙台高等専門学校も巻き込みました。 学生が提案した「民間の土蔵を若者の集う場に」というアイデアは、民間所有者の協力を引き出し、蔵の片付けから地域実装のフェーズへと進み始めています。いまでは、地域住民や学生、行政がそれぞれの役割を担いながら、「人が日常的に集える場」の創出をめざす取組へと発展しつつあります |
事例のポイントを、「共創まちづくり」の観点から“読み解くヒント”としてまとめています。事例はそのまま模倣することが難しいからこそ、背景やプロセスに着目し、ご自身の地域における実態や立場との類似点・相違点を意識しながら、実践に向けた学びの手がかりとしてご活用ください。
▲令和6年度の最終プレゼンの様子。土蔵を活用するというアイデアが生まれた(左)
▲令和7年度、実際に土蔵の片付けやライトを設置する様子(右)
目次
- 基礎情報
- 地域の抱える課題感
- 駅前にありながら、賑わいを失っていった増田地区
- 計画はあっても「実装」に届かなかった
- 最初のアクション
- 復興支援の縁から官学連携協定へ ── 早稲田大学との出会い
- 東京の大学だけに頼らない ── 地元・仙台高専を巻き込む
- 苦労話・工夫
- 先行する地域団体との「棲み分け」と、Win-Winの関係づくり
- 一過性で終わらせない ── 映像での引き継ぎと「1年間の授業」への転換
- 学生の熱意が、「蔵」を動かした
- コーディネーター不在の負担と、成果可視化・財源という宿題
- 取組の成果と次のステップ
基礎情報
| 自治体名 | 宮城県 名取市 |
| 人口規模 ※令和7年度時点 | 約79,800人 |
| 連携大学(所在地) | 早稲田大学(東京都)、仙台高等専門学校(宮城県) |
地域の抱える課題感
名取市の増田地区は、JR名取駅前に位置し、旧奥州街道沿いに商業と行政が集まってきた歴史的な中心市街地です。しかし近年は、高齢化に伴う後継者不足や空き家の増加が進み、かつて商店だった土地が賃貸アパートや貸し駐車場へと姿を変えるなど、土地の低利用化が進行。長く親しまれてきた賑わいが、失われつつあります。
中心市街地の再生は、名取市にとって長年の課題でした。「名取市中心市街地活性化基本計画」を平成12年、平成21年にそれぞれ策定したものの、平成23年に発生した東日本大震災以降、廃業を選択する事業者も多く、打ち手がなかなか実行に結びつかない状況が続きます。その後も、令和5年3月に「名取駅東地区賑わい再生計画」を策定したものの、近年の建築費高騰等の影響もあり、計画を地域での“実装”までにつなげることが、次に越えるべき壁となっていました。また、新たな視点や行動のきっかけとなる地域の担い手も不足していました。
▲名取駅周辺の地図
最初のアクション
▍ 復興支援の縁から官学連携協定へ ── 早稲田大学との出会い
早稲田大学との関係は、東日本大震災の復興支援をきっかけに始まりました。津波で被災した公民館の再建や被災地の賑わい再生、こどもが主体のまちづくり事業「なとりこどもファンド事業」の立ち上げに大学の教授や学生が参加するなど、いくつもの接点が積み重なっていきます。その縁が、令和5年7月の官学連携協定の締結へと結実しました。
市と大学とで協定に基づく具体的なアクションを探るなかで浮かび上がったのが、「学生のノウハウを活用して地域課題を解決する」という方向性です。これが、本プロジェクトの出発点となりました。協定締結までは前任の担当者が道筋をつけ、令和6年度からは担当課長を含む3名の担当者が、具体的な動き出しを担います。
市が新たな事業を立ち上げるためには、予算の確保と議会への説明が欠かせません。市は、令和6年6月の市議会定例会にプロジェクトの概要を説明するとともに予算を確保しました。同年9月には、地元商店街やまちづくり会社の関係者に向けて、市と早稲田大学の教員が共同で取組の説明と協力依頼を行います。令和6年度は、早稲田大学の学生が11月と翌年1月の2回にわたって現地入りし、延べ39名(1回あたり約20名)が増田地区でのフィールドワークに取り組みました。
▍ 東京の大学だけに頼らない ── 地元・仙台高専を巻き込む
取組を進める中で直面したのが、東京の学生は常に名取市にいられるわけではない、という当たり前の現実です。学生が現地を離れている期間も地域が自走できる仕組みがなければ、活動は長続きしません。
そこで市が目を向けたのが、市内にキャンパスを持つ仙台高等専門学校でした。早稲田大学の学生によるフィールドワークを行う中で、これまでも仙台高専の学生にヒアリングを行うなどの取組は行われていましたが、令和8年度からは、ふるさとミライカレッジのモデル事業を活用し、仙台高専の学生が正式に参画。首都圏の大学と地元の高等専門学校が手を組むことで、地域に根ざした継続的な関わりを生み出そうとしています。首都圏の学生による新しい発想と、地域で生活する学生による継続的な活動を組み合わせることで、地域内外の人材が関わり続ける仕組みづくりにもつなげようとしています。
▲体制図(右)
▲早稲田大学と仙台高等専門学校の学生の顔合わせの様子(左)
苦労話・工夫
▍ 先行する地域団体との「棲み分け」と、Win-Winの関係づくり
増田地区では「名取駅東地区賑わい再生計画」(市・令和5年策定)に基づき、地元まちづくり会社が震災後に整備された防災広場に賑わい拠点を整備する検討を進めています。そこへ大学が関わろうとしたことで、当初は活動の領域が重なることへの戸惑いの声もありました。
名取市は、学生の活動範囲を絞り込み、まちづくり会社が手がける計画エリアとの「棲み分け」を明確にすることで、丁寧に理解を得ていきます。さらに、学生のプレゼンテーションの場には毎回まちづくり会社を招き、取組が「自分たちにとってもメリットがある」と感じてもらえる関係づくりを、地道に重ねてきました。先行して動く地域の担い手と競合するのではなく、役割を分け合い、互いの利益を重ねていく。この調整こそが、外部の大学が地域に入っていくうえでの要となりました。新たなプレイヤーを増やすだけでなく、既存の地域活動との接続を丁寧に行うことが、活動を前進させる重要なポイントとなっています。
▲地元関係者との座談会の様子(左)
▲地元関係者との懇親会の様子(右)
▍ 一過性で終わらせない ── 映像での引き継ぎと「1年間の授業」への転換
学生との連携には、構造的な難しさもありました。令和6・7年度の取組は、早稲田大学の冬季・2単位の授業として実施されたため期間が短く、学生の自由な発想による賑わい再生プランも、プレゼンテーションで完結してしまい、地域での実装まで届かないもどかしさがありました。多くの学生が年度ごとに入れ替わることも、ノウハウの蓄積を難しくします。
この課題に対し、大学側は各回の活動を映像で記録し、次年度の学生へと引き継ぐ工夫を重ねてきました。さらに令和8年度からは、授業を通年授業へと切り替え。短期集中から長期的・計画的な関与へと舵を切ることで、提案を実装へとつなげる土台を整えつつあります。
▍ 学生の熱意が、「蔵」を動かした
大きな転機となったのが、令和6年度の学生提案から生まれた、「民間が所有する土蔵を、若者のたまり場として活用する」というアイデアです。令和7年度には、学生自ら蔵の片付けや簡易的な打合せスペースの整備に取り組むことで蔵の所有者との関係性の構築に努めました。
民間物件である蔵の所有者からの協力を引き出せたのは、何より「自分ごと」として地域に向き合う学生たちの熱意があったからこそです。学生の存在が、地域の新たな可能性を引き出す媒介となりました。令和8年度は、この蔵のさらなる本格的な改装と蔵を活用したイベントの開催を計画しています。
▲土蔵見学の様子
▍ コーディネーター不在の負担と、成果可視化・財源という宿題
推進体制もまた、模索の途上にあります。現在の役割分担は、名取市が予算の確保・大学の受入れ調整・地元関係者とのマッチングを担い、早稲田大学の教員が学生のフォローやアドバイスを、そして学生が「自分ごと」として地域課題の解決に取り組む、という形です。
ただし、地域と大学の間をつなぐ専門的な知識と経験を有するコーディネーターが不在のため、市の職員が直接交渉を担う負担が大きいことが課題となっています。名取市では、県内に拠点を有し、地域活動に多様なノウハウを有する「株式会社Wasshoi Lab」を、今後の中間支援として活用することを検討中です。そして理想として描くのは、プロジェクトに関わった学生が名取市に残り、まちのマネジメントを担っていく姿です。
財源の確保も、避けて通れません。令和6年度は学生を核としたまちづくり事業を支援する宮城県の補助金(補助率50%)を、令和7年度はふるさとミライカレッジの特別交付税措置(措置率約40%)を活用し、事業費は約300万円へと拡大しました。一方で、市民や議会などに対して「目に見える成果」をどう示すかが、予算を継続していくうえでの大きな宿題として残っています。
取組の成果と次のステップ
これまでの最大の成果は、民間所有者(蔵のオーナー)の協力を得られたことです。あわせて、「株式会社Wasshoi Lab」や地域のイベント団体など、新たな関係者との出会いも生まれました。学生という存在が、これまで埋もれていた地域の人材や場所を、少しずつ動かし始めています。
外部の若者が真剣に地域へ向き合う姿が、地域の側の心をひらくことにつながりました。
名取市がめざすのは、「人が日常的に集える場」の創出です。令和8年度に蔵の本格改装とイベント開催を進め、その後の取組の礎にしていく方針です。首都圏の大学と地元の高専、そして地域の担い手が役割を分け合い、学生が継続的に関わり続ける関係人口*1を育てていく。増田地区の取組は、街道沿いの一棟の蔵から、地域内外の人材が継続的に関わる仕組みをつくりながら、地域の賑わい再生につなげようとする挑戦です。
*1 関係人口 … 移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもなく、特定の地域に継続的に関心を持ち、多様な形で関わる人々を指す。地域づくりの新たな担い手として注目されている。
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